ナチュラルヴォイスヨガ入門-1

ナチュラル ヴォイス ヨガ

ナチュラル ヴォイス ヨガ 入門_1

 前回お話ししたように、今回のシリーズでは、独習で心身を調えたいと思う人が新しい声を実感し、同時に体を和らげ心を開放していくという方法を紹介していきます。でもその基になる考え方が一番大切だと思うので、その話にもお付き合いください。

 ナチュラル ヴォイス ヨガは沖ヨガを受け継ぐヨガであると同時にヴォイス・トレーニング法でもあります。単に声が良く出るというだけではなく、心身の気の流れを統制する、“本当の意味でのよい声”を求めるヴォイス・トレーニング法です。

 “気を統制する”などというと、ナチュラル ヴォイス ヨガはとても高度で、難しそうに聞こえますが、呼吸や体の使い方を誘導することができれば、実現することはそんなに難しくはありません。今までやってみた方はみんな、少し手伝うだけで今までに出したことのないような広がりのある声をその場で出します。これを独力で再現するにはそれなりの勉強も必要ですが、そのときその場で短時間?(2~3時間)のうちにそれを実感することができるということは、誰の中にもそのような呼吸と声の能力、気を統制する能力があるということの実証です。

 でも、声を使って呼吸や体の使い方を誘導して自分や他の方の声がよく出るようにして、結局はどうしたいと考えて私がこんなことをしているとお思いでしょうか。

 声によってストレスを解消し、対人関係を良くし、歌を歌いやすく楽しくし、健康に貢献し、と色々な効用がそれなりに考えられますが、それらの変化は声という切り口だけで見たときのものです。しかし、それらの変化を次々と新しい切り口で観ていくと、それは結局ヨガの説く人間の生き方に行きついてしまいます。それこそが私の目指しているところです。

 ヨガは“人間として最高の生き方をしましょうよ”という提案をしています。
何千年もかけて多くの人の経験と直感によって最高の生き方をするための考え方、メカニズムとノウハウを提供してくれているのです。それも、こんなにすごい情報を何の代価も求めずです。

 ヨガの教室に通うには少し費用が掛かりますが、それよりももっともっと安価に数冊の本の中に書かれているのです。もちろん本は選ばねばなりません、本来のヨガをまともにとらえて書いた書物は少ないですし、研究しようとすれば何千冊読んでも足りません。しかし、何をどうすればよいのかということはとてもシンプルに表現されています。それがヨガの八段階とか十段階と呼ばれているものです。

 簡単ではないかもしれませんが、いくつかのことを自分の心身に訓練させてクリアしていくと、こんな境地になりますよと書かれているのです。そしてそれが人間としての最高の状態です、と全体像を提供しています。

 それは見えない世界、現在の自分には分からない世界かもしれません。でもその全体像の地図に従って少しずつ歩んでみて、自分がどのように変化するか、いや変化したかをみれば、それが自分にとって好ましいものであれば、もう少しその地図に従って歩いてみようと考えるでしょう。私はそう思いながら、進歩の速さは関係なく、やっていることとその結果が自分にとって好ましく感じられるので、現在もその指針を目安にして生きています。その目安がどこを向いているのかというと、それがより豊かな心の状態です。その行きつくところはきっと、「最高の生き方」なのです。

 それを悟りという人もいるだろうし、最高の喜びを得て生きるという人もいるでしょう。
 自分の能力を最高度に高めて生きること、最高に他と和合すること、神と一体になることなどと色々な表現がされていますが、私はこの中の「最高の喜びを得て生きる」という内容をもとに話を展開しています。

 悟りとか神とかという言葉には取りつきにくいところがありますが、“喜び”という言葉は親しみやすく気持ちも和み、取り組みやすく感じます。声を変えていくということを題材にして少しでも“最高の喜びの世界”に近づこうというのがナチュラル ヴォイス ヨガの目標です。
 現実に、私自分も他の人も、声が変化し、より自分らしい声が出ると同時に気分が良くなり、綺麗になったりします。誇張ではなく、レッスンをしているうちに呼吸が変化し、女性が本当に綺麗になって一瞬呆気にとられることも度々です。
 会報の各頁に“自分らしい生き方が人を健康にする”と書いていますが、このような実例を見るにつけ、自分らしいということがいかに大切なことかがよくわかります。

 次に、声で気を統制するとどうして心や体を変えていくことができるのかということですが、これが分かるために大切な根本的なモノの捉え方があります。それは、心身一如という言葉にあらわされています。別物であるように見えている心と体は一つのモノであるかの(ごと)しであるといっているのですが、私たちにはどうしても同じものには見えません。脳みその構造上このことを直接把握することができません。

 頭(脳みそ)は色々なことを記憶したり判断したりすることができますが、頭ではどうにもできない不得手な分野も多くあります。それをあたかもやっているかのような錯覚、いわば思い込みを持ってしまうことが往々にあり、そのために本質が見えなくなっていることが多いのです。

 例えば、《永遠》とか、《無限》などという概念はそれなりのイメージを持たせてはくれますが、その言葉を思うときに自分の中に描くイメージは常に《有限》です。私たちの頭の構造上《限られた空間と時間》の中でのイメージしか持つことができません。でも、《無限の宇宙》というようなイメージを思い浮かべると、そのイメージは本当に《無限の空間》であるかのような錯覚を持つことができてしまいます。

 これとよく似た勘違いの一つですが、モノや事象を把握するとき、《そのモノ自身》を、《それ》として全体把握をすることができていないのに、《それ》を把握したつもりになっていることが多いのです。脳みそはそのような作りであるということを普段の生活の中で認識しにくいのです。

 私たちはリンゴというものをよく知っているように思っていますが、知っているのはその形、色、重さ、味、値段、香、などなど、リンゴ全体を把握しているのではなくその一部である切り口をたくさん知っているのです。たくさんといってもそれこそ無限にある切り口のほんのいくつかを把握しているのです。そしてその切り口を集めることで全体把握に近づきはしますが、けっしてリンゴそのものを直接把握することはできません。

 これは、同じものを映す角度によって形の変わる影絵のようなものでもあります。影絵の元になっているものを障子の向こうに見に行けば一目瞭然ですが、影絵から元のものが何かを知ることは難しいでしょう。でも、色々な角度からの影絵を見れば元のものが分かるかもしれません。心が体に影響したり、体が心に影響したりすることも同じです。同じ血液、同じ神経を使って心と体のそれぞれが別々に働いているようにも見えるのですが、実は心も体もそれぞれが《私という実体》の一つの側面であり、同じ一つのモノを別の角度からみた姿であるということがわかります。

 これと同じように私たちが人を見てその人の体や心や魂、というように見るのは、本来別々ではない《人》という実体の色々な面、色々な切り口の一つとして心があり、また体があると観ているのです。心が体に影響するというよりも、もともと心も体も同じ《人》の別な切り口を見ているに過ぎません。でも、このように理解をすることができてもやはり心と体は別なものとして見えているということに変わりはなく、これが頭の限界です。限界が分かっているならそれを克服するよう、まず分かったつもりにならない、わかったふりをしない、そしてできる限り切り口を増やしていくことが必要なのです。私たちが真実に近づくためにはその側面または切り口をたくさん持つことで、少しでも元の《実体》に近い把握に近づくことができるのです。

 このように見ていくと、声や顔つきであれ、体の部分やちょっとした仕草であれ、すべてその《実体》の切り口でしかありません。そしてこれを逆から捉えれば、一つの切り口から全体・実体に迫ることが可能だということです。昔からの人相学、経絡、関連部位、耳針、指ヨガ 眼ヨガ、どれもそのようなアプローチなのです。

 もちろんこのような手続きを踏まないと物事を把握できないドジな頭を使わず、すべてを直接に完全に把握する全く別な途があるかもしれません。自他一如を体感するというのはそのような世界を表しているのかもしれません。

 説明が長くなりましたが、このような観点に立てば、声も《人》 《 私 》 《[あなた 》 の一つの切り口ですから、声が変化するということは心も体も変化しているということが当たり前のことなのです。でも体がどのように変化すれば声がどのように変化し、またどのような声がどのような体の使い方をしているのかなど、そこの因果関係を知るにはそれなりの研究や経験が必要です。

 何はともあれ、このような把握を実生活に応用すれば、声に限らず生きている全てを使って自分を見つけ自分を変革し、すべてのことを最高の生き方に結び付けていくことができるのです。

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