ナチュラル ヴォイス ヨガ

体感空間ってなんだろう

 体感空間については、会報の中でシリ-ズにしたり、声の話題の中で何度もお話してきました。

 声を出すときの意識の状態を、心や体、そして呼吸などとともに表現しようとするとき、その声の出方と意識との関係性について、多くの人の中にある共通の感覚を表現するために不可欠な言葉として「体感空間」という言葉を使いはじめました。
 それは、ある概念 ー感覚的な把握ー を体感空間という言葉で表現することが私にとっては当たり前になってしまっているのですが、セミナーなどでこの言葉を使い、またその意味を説明をしていくと、受講者からは声に出ないハテナマークが返ってくるように感じられることがある。そこで、呼吸や心の状態などの色々な別の言葉でその意味を説明しようと努力をすればするほどにますますハテナマークが増えていくようなことがよくありました。

 私にとって「体感空間」の概念はとても大切なもので、これまで直感的に語れらてきた人間関係や、心、体、意識、そして声などのことを包括的に把握できる、言葉では表現しにくいところの新たな切り口の捉え方であり、当たり前のこととして語られなかったことを言葉にして、新たな論理を生みだすことが可能な画期的な試みであると考えてきました。ただ、この言葉の持つ意味は心の状態を表現するためには少なくとも日本では誰もが感じ言葉としての表現は誰にもよく使われてきたものです。しかし、それが身体の使い方や呼吸のあり方と一体のものであるということを説明するときにただ直感的にそう思うというだけでは、受け入れにくいだろうから、もっと論理的にその説明をしたいと常々考えてきたのですが、最近の研究の成果である呼吸の拮抗の理論と合わせると、呼吸や身体の使い方、声の広がりと空間意識などということがだいぶ説明しやすくなって来ました。ここでは会報の2013年12月号 (No.171)に書いた記事を少し手直して読んでいただき、またこのサイトに新たに入れた「呼吸コントロールのメカニズム」の21編全体で表現していますが、特にその中の体感空間の記述が2編あります。合わせて読んでください。

 心には広さがある

 私にとって、この「体感空間」という言葉はヨガの三密(心・体・呼吸)と声を結びつける言葉として、どうしてもその間に置かなければならない媒体の役目を果たす概念です。

 「心が広い」という言葉がありますが、私たちの把握としては、「心」はつかみどころがなく見えないものとして存在しています。そして「広い」という言葉は明らかに物理的に把握のできる空間という意味を含んでいます。
 このまったく物理的でない概念と物理的な空間を一緒にして一つの概念を表現しているのです。

 「木を見て森を見ず」という言葉にも表れているように、意識には空間的広さが伴っているのです。そしてそれは広くなったり狭くなったりするものです。「心が広い」、「夢がふくらむ」、「胸がふくらむ」、「懐が深い」、などなど、心の状態を体の使い方や感じ方に置き換えている言葉が表しているものが「体感空間」です。

「懐が寒い」というのもやはり同じような表現でしょうし、「寛容」という言葉も体感空間を表現した言葉といえるでしょう。「寛い」は広いであり、「容」は入れる、形、姿、許すというような意味を持ち、心のなかみが広く大きいということです。要は体感空間の広い心の状態を表しています。

声は空間を占める

ここで声のことについて考えてみましょう。

 音はその強さに応じた空間の広さに伝わります。声は呼吸のエネルギーを音に変換したものですから、声と空間を分けて考えることはできません。
 何か声を出せば、それは相手と共有する空間を占めています。たとえそれが独り言であれ、無人島の中であれ、自分の内や外にある空間、またはイメージされた空間をその声のエネルギーで占拠していると考えられます。

 声の対象になっている人であれ、その傍観者であれ、全く無関係な人やモノであれ、その占拠された空間内にいる人(モノ)にはその声(音)が否応なく聞かされてしまいます。
 これがその声が出てくることに関係している相手であれば、それはその声を出した人と聞かされた人との間に共有する空間を意識していることになります。
 相手の位置、相手の行動、今の心の状態、次にするであろう行動などをその声を通して感じています。

 声を出す人が聞く人に対して包容力を発揮している時にも、怒りを表している時にも、その声の音色からそれを感じることができます。
 その声に包まれているように、その人の持つ心の広さや攻撃的エネルギーを声から体感します。

 息は体に空間を生み出す

 今度は呼吸のことを考えてみましょう。これが空間として捉えることのできる一番わかりやすい説明になると思います。

 その感覚を拡げたり、他の要素との共通性を考えるときにはイメージも必要になりますが、

 息を吸えば空気の入る物理的空間が体内に生じます。意識的に呼吸をした時に体の中に息が入って膨らみが生じ、その膨らみが生じると同時に他の場所にも張力や圧力といった感覚が生じ、実際には空気の入らないところに空間があるように感じられます。
 これを体内空間と呼びますが、この空間は体の使い方や息の入れ方、そして心の状態により変化する空間です。

 実際にはお腹に空気が入ることはありえないのですが、呼吸法をしたことのある方であればまず誰もがお腹に息を入れるという感覚を持つことができることでしょう。この意識を体内に向けると空間や広がりは体の中で生じていますが、意識を体の外に向けると、この広がり感は体の外の空間に置き換えることが出来るようになります。
 これを体外空間と呼びますが、声においてはその広がりを色々なケースで感じています。例えば、目の前の恋人にささやくような空間の捉え方とほんの少し距離を置く、それほど親しくない相手との声、2~3人を対象に話す場合、10~20人に話す場合、それぞれ、声の大きさ以上に捉えている空間が変化します。

 そのような空間の捉え方の高度な例として、《演劇の中でささやくような声を客席で聞くすべての人に届くような声で表現する。》というようなこともあります。とはいうもののこの感覚を意識的に身につけるには呼吸の修練が必要です。まず生命の働きに逆らわない自然な体内空間を身につけ、その上により精妙な呼吸を身につけることで体外空間に発展させることが出来ます。

心と声と呼吸

 ここで話している空間意識には、呼吸で捉える空間、心で捉える空間、声で捉える空間と、三つの空間の捉え方がありますが、この三つは本来まったく同じものなのです。

 声で捉えることのできる空間を生み出す原動力は呼吸です。そしてこの呼吸を生み出したのは意識であり、心の状態であり、体の状態です。声の占める空間、その声を出している意識が占めている空間、そして声と意識をつないでいる呼吸の形、そしてその呼吸が生み出す空間、これらのすべてが自分の中で生じるイメージ空間ですが、どのイメージからのアプローチも他のイメージを変化させ、結局同じ感覚に到達します。
 ですから、ヨガの目的に到達するために、体の使い方から入ったり、呼吸法や冥想から入ったりするのと同じように、声から入る道も考えられます。

 しかし、この三つが同じものであるという感覚を論理的に説明しようと試みて、頭の整理をしていますが、一番大切なのは体験による把握です。セミナーなどですべてを説明しようとする試みそのものが間違っていたようです。とくに声を使って体の中や外に空間を感じるということは、個人的な指導で初めて体験することが多いようです。セミナーでも参加人数の少ない時は個人的にアプローチしてその体験をしていただくことを大切にしています。体験してみたい方はセミナー参加や個人指導を受けてみてください。

また、「呼吸コントロールのメカニズム」の21編全体、特にその中に「体感空間」の記述が2編あります。合わせて読んでください。

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