ナチュラル・ヴォイス・ヨガは従来の発声法とは異なる理論や体系による、新しいタイプのヴォイストレーニングです。もちろん、良いと感じる声を求めるのですから、そこは旧来の発声法と変わるところはありません。しかし、良い声、良い発声法を求めるには、呼吸の状態や身体の使い方がベースになっているという認識を深め、その根本を押さえたアプローチが必要です。それを実現するために、ナチュラル ヴォイス ヨガでは声をバロメータにして正しくヨガをするという方法をとります。喉の状態や響きからだけではなく、呼吸の状態、そしてその呼吸を生み出す身体の使い方を深く掘り下げて、生命の働きに沿い、生命を活かすというアプローチで良い声を求めます。
本音をいうと、私のやっていることはヴォイストレーニングという言葉ではうまく表現できません、でも他に適当な言葉が見当たらないので、この言葉を使っています。また、ヴォイストレーナーと名刺に書いたりすることもあるのですが、適当な言葉が見つからず、これもやむなく使っています。
声を良くしていくために必要なことは、トレーニングという感じで鍛えることよりも、バランスをつかむとか、自分と他との関係性に気づく、というような感覚の方が大切で、自分らしい本来の声に出会う、本来の自分に出会うと表現する方が私にはしっくりきます。この感じ方で進む方がきっと、早く、間違いなく、より良い道を進むことが出来ることでしょう。無理のない良い声の出し方をおぼえていけば、必要な筋肉は勝手に鍛えられるので、トレーニングという意識は必要なくなります。
体や呼吸を支配するための筋肉が結果としてトレーニングされるということは確かに必要です。普段あまり体を使っていない方には、ちょっときつい、と感じることもあるでしょう。でもそれは喉回りや声帯の話ではありません。肋骨や横隔膜を使うことでちょっときついのです。そこが、その人の足らないところですから、それを経過して初めて、全身の健康的な使い方や良い呼吸が身につき、良い声がでるようになるのです。
《母音メソッド》《ヨガのポーズ》の応用、そして色々な《ボディワーク》や《呼吸法》を駆使して、声と体、体と母音、心と体の結びつきを捉え、そしてそれらを統合する呼吸の働きを身につける。これが、自分らしい良い声を引き出します。また一人ひとり心も体も、そして癖も異なりますから、その人の足らない働きを補うような、姿勢と呼吸の変化を引き出すことが大切です。
歌、朗読、演劇、初心者、プロ、どのようなジャンルの声も、肉体を使い呼吸を使って声を出すのですから、身体の使い方や呼吸の状態が調うような能力を身に付ければ、声は無理なく変わります。そしてその変化は声だけにとどまりません。
レッスンをしていて、生徒からその人らしい声が出てくるとき、このときが私の一番感激する瞬間ですが、生徒が言うことはきまって「気持ちがいい」、「自分が大きく感じられる」ということです。
体と呼吸の使い方がその人にとって理にかなったものになったとき、思考によって生まれる主体性ではなく、自分の存在そのものから生じる主体性が感じられ、これこそ自分だ、これこそ自分の声だと自覚できます。
これが自分の声に出会うということです。
ヨガや声を真剣に学びたい方へ
そしてヴォイス トレーナー、ヨガの指導者の方々へ
自分の中にある「喜びを生み出し感じる能力」をみずから発揮できるように絶えず求め続けること、それがヨガをするということです。そして、自分の生きる作業をすべてその目的に向けてこそ本物の実を結ぶことが出来ます。その実やそこに到る過程をヨガと呼んでいます。声に限らず全ての行動において、自分の中に喜びを生み出すことができるような生き方をする。これがヨガをやるということです。
自分の得た成果が生きる喜びを引っ張り出すのではありません。ただ声がよく出るようになったとして、それが何になるでしょう。行為そのものが自分の命を輝かせないとしたら、その行為に意味はありません。生きる喜びがその行為に伴っていてこそ本当の生き甲斐です。そしてその喜びは元々自分の中にあったものなのです。
何かを得たとして、それが価値のあるようなものに見えたとしても、それそのものが自分の人生の真の喜びに寄与することはありません。真の喜びはもらったり買ったりすることが出来ませんし、どれだけの大金をつぎ込んでも手に入れることはできません。そしてその喜びは追及するほどに、そう簡単には手に入らないことに気づくことでしょう。でも、その喜びが得られないなら、人生はただ生きてただ朽ち果てるだけのことでしかなくなります。そんな生き方に価値を見出すことは出来ないことでしょう。
声という素晴らしい題材を与えられていることを簡単に済ませてしまわずに、生きる根本を見つけ自分のものにするという、本来のヨガの目的と方法を知ってください。そして一生をかけて本物を探し、また手にするための題材に声を使って欲しいと念願します。体が柔らかいからヨガの講師ができるわけではないのと同じで、自分の声がよく出るからといってヴォイス トレーナーが出来るわけではありません。声を出すほどに自分が豊かになるそんな声、自分らしい声を求め、自他の人生を豊かにしていくのがヴォイストレーナーの役割であると思います。
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