もとはこちら(平井先生)

欲望の本性

(2004/6/1 和気愛会第63号掲載 平井謙次先生講和)

人間の五欲

 私たち人間には、生まれながらにしての基本的な欲望があります。自分の生命活動を続け、それを維持発展させたいというものです。

この基本的な欲望があるからこそ、私たちは生かされ、生きていくことができるのです。

 もし何の欲望もないとすれば、息をすることもできないし、生まれたての赤ん坊も、お乳を吸うこともできないでしょう。

 これら生まれつき備わっている人間の基本的欲望には、大きく分けて三つのものがあります。いわゆる食欲と睡眠欲、そして性欲です。このうちの食欲と睡眠欲は、宇宙からの気を取り入れる、陰性的欲望です。これに対して性欲は、宇宙に気を放出する、陽性的欲望です。また、この性欲は、人間の場合は形を変えて、経済欲としても表現されます。いわゆる金銭欲、物欲、名誉欲です。そこでこれら食欲・睡眠欲・金銭欲・物欲・名誉欲を指して、人間の五欲と呼んでいます。

 ところで、生きとし生きるものはすべて、快さというものを、追い求めております。この快さというものは、「生命そのものが、本来あるべき状態にあるとき」に感じるものですから、素晴らしいことであり、生きている限り当然のことです。そして、まただれもが、「この快さの中にずーっととどまっていたい」あるいは「もっともっと、より快い状態を追い求めたい」という欲望を持っています。

基本的欲望とエゴ的欲望

  さて、それではこの欲望の満たし方ということについて、考えてみましょう。

 たとえば、健康な人ならだれでもおなかがすけば、「何かを食べたい」という欲望が自然に湧いてきます。このとき本能的に持っている欲望は、「空腹を満たしたい。しかも、できるだけ身体にとって、良い物、必要な物で満たしたい」というものです。そこで私たちは、何か食べ物を見つけ、それを食べることによって、快さを感じ満足します。また、幸福感をも覚えます。
 ところが、食べたその時の感じ方が、あとあと問題になる場合があるのです。

 それは、その食べ物が身体にとって、本当に良い物、必要な物であったかどうか、ということとは別に、個人的な好みという問題があるからです。おいしいと感じれば、また食べたいという欲望が()き、まずいと感じれば、もう食べたくないという欲望が湧くからです。その結果、本来備わっている純粋生命の欲望より、好き嫌いによるエゴ的欲望を優先させてしまうということが、往々にして起きてしまうのです。いうならば、基本的欲望と、エゴ的欲望の間に、ズレが生じてしまうわけです。

症状は生命の警告

  確かに、食べておいしかったと思う物を、次々と食べ続けることは、湧き出る欲望を満たしてやることですから、快いことです。しかしこの快さは、満たし続けることによって、身体を不自然な状態にする快さです。身体のどこかに必ず異常が発生し、「そのいびつになった不自然さを正しなさい」という信号が、病気という形で送られてきます。これは、「自然な状態で、健康に長く生きたい」という、生命そのものの基本的欲望から発せられた警告です。

 純粋な生命の欲望はあなたに対し、常に正常な状態、健康な状態にあることを望み続けています。ですから、何か症状が現れたときには、必ず立ち止まって、生命の警告に耳を傾け、食欲の満たし方を点検し、反省訂正しなければなりません。

  ところが、個人的好き嫌いによるエゴ的欲望のとりこになり、長年かかって身に付けた(くせ)がやめられず、捨てられず、今までどおりの生き方を何一つ変えることなく、医者だ、薬だ、手術だと、走り回る人が多いのです。エゴ的欲望のとりこになり下がったままで、せっかく起こってきた症状の意味を解さず、その症状だけを敵視して、消す算段だけに奔走(ほんそう)するのは、誠に愚かなことです。

 例えば、糖尿病になってしまった人は、必ずと言ってもよいほど、甘い物が大好きです。そのうえ残念なことに、人間は一病を持ってしまうと、その病をもっと悪化させる物が好きになる傾向が強いのです。そこで、そのエゴ的欲望に従って、欲望の命じるままに、血糖値を上げる甘い物を、どんどんと制限なく食べ続けてしまうのです。そして症状が悪化したからと言って、今度は血糖値を下げるための薬の量を増やす、というような愚かな事をしてしまうのです。

正しい欲望の満たし方

  基本的な欲望は、生きていくうえになくてはならない大切なものです。これは、食欲に限らず、他の欲望についても同様です。問題は、欲望の満たし方にあるわけです。 片寄りがあってはいけません。あくまでも、生命の基本的な欲望に従うことが大切です。決して個人的好き嫌いによる、エゴ的欲望を優先させてはなりません。

 また、何ごともバランス、ほどほどということが大切です。 いくら身体に良いからといっても、食欲に任せてひたすらに食べてばかりで、動かなければ、当然肥満体となり、苦しむ結果となるのです。 何の欲望においても、このことは当てはまります。片寄った欲望の満たし方を続ければ、不幸という症状が現れます。入れるばかりでも、出すばかりでもバランスが崩れるからです。

 先に、人間の五欲は陰と陽に分けられると書きましたが、そのうちの一つひとつの欲望の中にも、また陰と陽の両面があります。

 例えば睡眠欲ということをとってみても、眠りたいという欲望の裏には、身体を動かしたいという欲望があります。また金銭欲にしても、それを取り入れようとする欲望の裏には、それを放出させたいという欲望が必ずあるはずです。その両面の欲望を、バランスよく満たしてこそ幸せであるものを、何をどう間違ったのか、取り込むほうの欲望だけにとりつかれた人がいます。こういう人は、全く悲惨です。(しゅ)銭奴(せんど)になり下がり、ためてもためても満足できず、人間的にも向上できません。そして、他人から(さげす)まれ、心貧しく喜び少ない人生を送ります。さびしい最後を迎え、死後預金通帳だけが残り、そのなきがらは引き取り手さえいなかった、というようなことになるのです。これは言わば、金銭の便秘症状です。間違いなく病気です。

エゴ的欲望を昇華(しょうか)する

  欲望は満たしきってはいけません。バランスよく、ほどほどに満たし、足りない分を、次の生命エネルギーを引き出す力として、使う必要があります。満たし方を誤ると、個人的にも不幸になるし、社会的にも損失をもたらす結果になるのです。

 本来欲望というものは、個人のエゴ的満足を満たすためにのみ、備わっているものではありません。 欲望を通して、いかに自分を磨いていくかということです。 皆のために、いかに役立つ人間になれるか、ということが問われているのです。欲望の充足を、個人レベルにおしとどめていては、不幸を招くばかりです。大きく欲望の場を広げてください。

 “自分の生命を大切にしたい”というエゴ的欲望も正しく持てば、“すべての生命を大切にしたい”という、神の心につながります。

 “私が成功したい”という欲望も、正しく満たしていけば、他人の成功や幸福を喜べる、(ふところ)の広い人間になっていきます。“人から尊敬されるような人になりたい”という、いわゆる名誉欲をも、正しく使えば、社会を進歩発展させる、素晴らしい原動力に結びつけることができます。

 このように「エゴから離れた正しい基本的欲望」は、いくら膨らませても、何ら問題は起きません。持てば持つほど、満たされれば満たされるほど、自分も他人も皆が幸せになっていきます。

  「持てる力を十二分に発揮して、皆と共によりよく生きていきたい」というのが、私たち一人ひとりが生まれながらにして持っている、基本的欲望の姿です。

 人間は基本的欲望を土台に持ち、個人的好みによる欲望をも満たそうとする動物です。この二つの欲望の間にズレが生じるとき、生命はそれを不幸と感じ、修正を求めて症状を出してきます。

 私たちは一人の例外もなく、幸せを求める動物です。ですから試行(しこう)錯誤(さくご)の末、いつの日か必ず、基本的欲望とエゴ的欲望が、完全に一致する時がやってきます。そうなれば、私たちは欲望の欲するままに、欲望をさらけ出して、堂々と楽しく生きていけるのです。至高なる幸せ者の誕生です。

 欲望は、自己中心から自他拡大へと進化する。

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