沖先生の思い出の最初の入門のところで書いた、23歳で初めて沖ヨガ道場に行き、修行願いを書いて入門した時は6月の末頃でしたから、水浴も滝に打たれるのも気持ちいいだけで何の抵抗もありませんでした。
一度目の道場体験で得たものが多く、もっと行けばもっと得るものがあるだろうと大学を休める次の年の2月にまた道場に来ていました。
朝の太鼓がドーン、ドーン、ドン、ドン、ドンドンドンドンドドドドド と鳴り、起床時間がいつもより早い日がありました。
外はまだ真っ暗で多分4時頃。いつもなら、まず読経行法が始まるのだけれど、「男子はパンツ一枚になれー」と研修生の指示。何が始まるのかと皆戸惑いながら下着一枚になった。女子はどうしたのか覚えていないけれどとても寒い日でした。
「外に出て川に入れー」、と研修生が叫ぶ。 えーっ?!!! 冗談だろ!!
道場は静岡県三島市の沢地というところにあり、その村の中を流れる沢地川という小さい川の傍に建っていて、いつもせせらぎの音が聞こえている。でもまさか真冬にその川に跳び込めとは!?
小さな川で跳び込めるような代物ではなかったけれど、恐るおそる冷たい流れの中に足を入れ、意を決して腰くらいの深さのところでしゃがんで首まで水に浸かった。流れもせせらぎの音も変わらず、親しくなった修行仲間と顔を見合わせ、「効くな~」と笑い合う。確かに冷たいけれど辛いという感じではなかった。しばらくすると次のグループと交代と指示が出る。
水から上がってタオルで体を拭いて少しすると身体がポカポカしている。水に入っている連中を見ると湯気が立っているように見える。冷やせば温かくなる、温めれば冷える。生命は『冷やせば冷たくなる石ころ』とはちがうのだと、この時にハッキリと分かった。
その前日、講義だったか質疑応答の時間だったかで、沖先生が、『風邪を引いたら水風呂に入るんだ。寒い時でも湯気が出てくるぞ』と言われていたことそのままだ。身体が熱が出すのは必要あってのことだ。その生命(いのち)の働きに協力してやるのだ。熱を出させ汗を出させ、下痢をするならそれも止めることをせず協力するのだ。
それを聞いた時は本当にそんなことをしても大丈夫なのだろうか? 風邪が酷くなるのではないか、熱が高くなったら身体に良くないだろう、それはいくら何でも無茶だろうと思った。でも水風呂よりももっと冷たい真冬の屋外の川の中に入った後の身体の気持ちよさを味わった後では、自分の考えよりもきっと沖先生の話の方が正しいだろうと思うようになった。
そして、それからそう時間を置かず実際に試して見る時が来た。風邪を引いて熱が出てきたのだ。家の風呂に水を張り5分だったか10分だったかしっかり冷やしたところもっと熱が出てきた。
これまで風邪を引けば必ず薬を飲んで布団に入って寝ていた。でも今回は薬を飲まないでやってみることにした。 清水の舞台から飛び降りるような決心だ。薬を飲まなかったことがなかったから、心のどこかで死ぬんじゃないだろうかというような不安があったけれど、道場の過酷な修行にも耐えれたし、そのことで心身が大きく変わったのだから、沖先生の言うことに間違いはないはずだ。
そう自分に言い聞かせて熱や喉の痛みと付き合っているうちに、次の日だったか、いつの間にか熱は下がり喉の痛みもほとんどなくなっていた。薬を飲まなくても風邪は治るんだ! 目が開いたようだった。
大発見をした気分だし、強くもなったように思えた。やはり沖先生の言われることは正しい。沖先生はそのことを身体でわかるよう実際に体験させてくださったのだ。そして体験こそが本当の知識だと教えて下さったのだ。
それから50年間、風邪薬を飲んだのは多分一度だけ、どこかで講演をするときに鼻風邪を引いて、鼻水がどうにも止まらない。この時ばかりは風邪薬の世話になった。道場での体験の後、野口晴哉氏の『風邪の効用』という本を読んでみるとほぼ同じようなことが書かれていた。それは熱も下痢も鼻汁も必要あって出ているのだということだ。その上に風邪の上手な経過のさせ方まで具体的に詳しく説明されている。
しかし、沖先生や野口晴哉氏のお二人の言われることは風邪のことだけに留まるものではなく、病気というものの正体の捉え方から始まっている。
病気は悪いものではない。症状は生命の働きが心や身体に生じたアンバランスを解消するために起こしている回復運動である。だから、症状を止めるのではなく、自身の力で早く経過し、バランスを取り戻せるよう症状に協力することが大切である、と。
私も、その教えとそれを実践することで生まれた体験とから、生きるということ、生命の働きがどのようなものか、ということを把握させていただいた。
このあたりのことは私の説明よりも本を読んでもらう方が数段分かりやすく面白いことだろう、沖先生の『ヨガの喜び』や先ほどの『風邪の効用』を読むことを強くお勧めします。
→ 感知力
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