ヨガの眼目=統一心・統一体・調和息

呼吸コントロール力

8.心身息の統一

統一心、統一体、調和息 = ヨガの三密

 沖ヨガでは心身息の三つを調えて真に和らいだ自己を実現する。このための統一心、統一体、調和息を「ヨガの三密」としています。

 身体を統一して使うということは全身の連携すなわち協力関係がうまくいっているということです。心の統一も同じ、思いが散漫にならず一つに集約することです。

 必死で走るとき、何かを心底渇望するとき、身体であれ心であれ、たった一つのことに向けて全身全霊がまとまって働きます。このように心身が統一しているときには呼吸も統一されます。   

 必死の状態でなくても、普段の生活や仕事がこの「統一」状態で行われることが大切で、これによって行動の質が決まります。能率が高く仕事の成果の上がる状態ですが、この取組み方によって、面白さ、やりがいなどが生まれ、また結果として悦び・健康・元気なども得られます。

 ヨガでは、心身の最高の安定を意味する禅定(ディアーナ)を実現するには、その前に心身統一(ダラーナ)【文末註参照】の実現が必要であると説いています。

分裂

 統一の反対を分裂といいますが、嫌々やる、目的感が持てない、気力が萎えている、というような時には私たちの心も身体も行動の仕方も分裂し、やればやるほど頑張るほどに無理が生じ、身体も心も健康が損なわれる方向に働きます。

 私たち人間も遠い太古の御先祖にまで遡れば、心も身体も得たいものを得る、行きたいところに行く、欲しいから手を伸ばす、というシンプルな行動があり、そこには分裂という状態はなかったことでしょう。しかし、より進化したサルの社会ではその頭脳の働きのせいで欲求と行動のジレンマがある程度強くなっているように見えます。人間の場合は思考が複雑化することでこのジレンマがエスカレートし、その上文明の発達で多くの機能を使わなくなり、心身のバランスが壊れやすくなりました。

 仕事も生活も思考も、全身全霊でやらなくても食べていけるし危険回避もできる。その上仕事の分業化が進み、ますます部分的な使用と発達が進み、全力でやるという場面が少なくなってきました。それでも全力で生きることへの希求があるからこそ、全身全霊で取り組むスポーツや冒険を自らやったり観戦したりすることが好まれるのでしょう。

 好きなことを楽しんでいるときには心のジレンマが減り、誰もが分裂の少ない思考と行動になりますが、多くの人が多くの時間を喜べない状況の中で過ごし、身体や心の使い方の分裂を招いています。分裂の原因の多くは生活形態の中にありますが、それによって生じる心身の異常が次の分裂を引き起こし、異常と分裂の連鎖の悪循環がとめどなく続き、またそこで生じる意識的行動と無意識的欲求との乖離が大きくなり、思いも行動もますます分裂し、心身の異常も深刻なものになっています。現代の病人の多さはここから始まっていることでしょう。心身の機能を正常化するためには生活を正し、この良くない連鎖を断ち切り、統一した心身を取り戻すことが不可欠です。

連携 ・ 統一

 私たちが本来性を取り戻して気持ちよく生きるには、分裂から離れ、統一という本来与えられている連携機能を強くする必要があります。生命の働きは無意識の領域では全身心を連携統一させようとしていますから、意識的にそれを取り戻せばよいのです。そのための指標が《ヨガの三密》です。 

 この連携と統一のためにこそヨガが必要と考えますが、そのヨガもやみくもに求めては迷路に入ることになります。統一の意味の理解、統一された状態に対するイメージ、などが必要です。 

 統一というのはただ集めて一つにまとめるということではありません。生まれながらに持っている生命を維持する働きそのものが統一調和の働きですから、人間の持つ本来の働きを取り戻すということであります。生まれながらに与えられた豊かさや喜びを、意識や生活の分裂が失わせていることに気づき、生命の要求する状態を自らに実現するということです。

本当の自分に出会う

 統一調和というと難しいそうですが、気持ち良いとか楽だとかと感じることのできる「バランスを回復し維持する働き」のことですから、誰もがそれを思い出してそこに向かうことができます。元々動物にも私たちにも、統一した状態になる仕組みが内在しているということです。元々ない働きを生み出すのではなく、本来持つその能力が再び力強くデリケートに働き始めるその姿を自分に実現するということです。これこそが本来への回帰であり、本当の自分に出会うということであり、健康や生きがいを取り戻すために一番大切なことです。 統一には多くの面があることでしょうが、NVY(ナチュラルヴォイスヨガ)では 呼吸のありかたと身体の使い方から取り組みます。

誰もが持っている本来の呼吸

 体と心のどちらの働きもが形として表れる呼吸、そして、無意識と意識の間にあり、どちらの状態も反映し、またこの両意識に支配力を持ち影響を与えることのできる「呼吸」が、この「統一」に深くかかわっています。心身が統一されるということは、呼吸が統一調和されるということであり、それは本来持っている正しい形の呼吸が呼び起こされているということにほかなりません。この働きが身近にあるということ、自身に内在された働きであるにもかかわらず今はその働きを活かすことが出来ていないということ、それらに気づいて取り戻すことが大切です。

 笑ったり泣いたりする、そしてアクビをするクシャミをするなど、私たちの心や身体は無意識から発せられる呼吸を伴った行動、すなわち反射的な行動を持っています。そしてそれらにはみなある種の快感が伴っています。中でも感情の解放を伴う高らかな笑いや開放された号泣は人間に与えられた賜物です。アクビも同じですが、これらで快感が得られるのは、生命の要求に適う行動に与えられる報酬系のフィードバックが働くからです。これらの自発的運動は肋骨や横隔膜の連携を強め、浅くなった呼吸に対して本来の呼吸を呼び起こす力を持っています。それは、正しい呼吸法のお手本が自分の中にもあるということです。

 そこで、笑いやアクビを一度したらその後は身体の機能を最大限に発揮する深い呼吸になるのならありがたいことですが、残念なことにそうはなりません。癖づいた身体の使い方がすぐに元に引き戻すからです。ですから、この反射的な動作を出来るだけ多く繰り返し、筋肉に神経に脳に教え込み、連携を回復した呼吸を全身が思い出し、それが日々行う呼吸のベースになり、深い呼吸、豊かな呼吸、悦びに満ちた呼吸を生きる日常にしてしまう、という作業をすればいいのです。今はそのような呼吸を忘れている人もきっとアクビは出るでしょうし、心から笑うこともあるでしょう。その呼吸こそが深く豊かな呼吸を思い出すための呼び水になります。

 まずは沢山やります。10回と言わず100回、いや1000回、万回、そしてその働き方を運動神経に叩き込めば必要な筋肉も勝手についてきます。そこで初めてこの働きがベースになり、日常の生活にとどまらず運動や芸道を行ったり快い心の状態を維持するための正しい呼吸の基礎が身に付きます。そしてやるほどに健康にも喜びにもあふれた元気な人生にすることができます。

 また、その思い出した呼吸の働きを育てるためには、ヨカ゛のポーズが役に立ちます。ただし、ストレッチ的なヨガではその働きを養うことはできません。得た呼吸を育てるやり方、すなわち呼吸の拮抗を内在した呼吸をポーズに生かす必要があります。言葉を変えれば肚に力のこもった全身を協力させ統一された呼吸で統一されたポーズをするということです。

 このやり方のポーズは動禅と同義語で、アイアンガー師のポーズを見ればその使い方が分かります。呼吸と共に行う「ライオンのポーズ」を正しくやるのはこのためにとても役に立ちます。それは、アゴや首の壁や喉の筋肉が、肋骨や横隔膜の拮抗の働きと連動している、すなわちここにも連携があるからです。現代にヨカ゛を伝えた人たちはそのメカニズムの根本を身体で理解したうえでこのポーズを実践していたに違いありませんが、現在の多くのヨガ情報ではそこは欠落しています。大まかな形はNetを参考にしてやればいいですが、呼吸の大切なところを簡単に説明します。

ライオンの呼吸法

 ライオンのポーズの姿勢で、アゴを引き、胸を引き上げ、下腹を引き、口を大きく開き、舌を十分に出し、目を見開く。それから、息を口から大きく吸い込む。ここで胸郭を高く引き上げますが、前だけでなく後ろも横もすべてを引き上げるように息をいれます。この息は上向きの方向で、上胸部・上背部の鎖骨や首の後ろのつけ根まで息が入り空間が広がります。下向きの息は横隔膜を下げますが、お腹も腰も最下部まで、ここでも前も後ろも横も全体に下向きに入るように姿勢の工夫が必要です。そして肛門を締めて引挙げると腹圧があがり下腹に意識が生じます。お腹や腰の底まで息の空間が開き、息を入れようとしているそのままの状態をお腹で受け止めて置く状態になります。

 話をまとめると、上向きにも下向きにも息を入れ、息が十分に入ったまま下腹を引き、上体を起こしアゴを引き、肛門を締めて一つにまとめますが、これでおしまいではありません、

 次にアゴを大きく開き、アクビの感じで喉のずっと奥まで開きます。息をもっと入れようとしているそのままで頭が身体に引き寄せられ首が太く短くなり、息の入る空間が首の高さにまで大きく広がります。次に、仁王さんのような顔を真似ると分かりやすいですが、顔面の筋肉や頭皮を引き上げ、目をカッと開き、そのまま舌を長く突きだして下に向けます。これも息を入れようとしているままです。これだけの作業を一つも減らさず全部まとめてもう一度肛門を締め直し、息をお腹で受け止めたまま息を吐きます。もし、息を吐くときに空間を拡げる力が緩む場合は下記のように少し違った吐き方をします。

 顔を仁王さんのままで息を入れたまま歯だけを閉じて吐く息に抵抗をつけて強く吐きます。息が漏れすぎる場合は歯に舌先を当てて抵抗を増やします。これで空間を拡げる力を緩めず萎めず息を吐くことに慣れます。

 吸う働き(身体を広がる働き)を失わないままで強く吐き切って、吐く力だけを緩めると元の空間に息が戻って来るので、もう一度最初から、上・下・肛門・アクビ・仁王さん・肛門・下腹・上体・アゴと意識をして息を入れ、お腹に息を置いてから吐くということを何度か繰り返します。

 最後は背スジとお腹の意識を緩めずに鼻から息を入れてクムバクしてからゆっくりと吐いて終わります。 

 形だけを真似ず、背スジが伸び、呼吸の拮抗と空間の広がりをどこまで追求できるかがポイントになります。仁王さんの阿形吽形もこの呼吸をしている姿なので毎日何度もまねて、拮抗した呼吸でクムバクをすると呼吸が深くなり、肚の感覚が養われます。

全身が呼吸器

 このライオンの呼吸法がしっかりとやれるようになると分かることがあります。それは呼吸というものが、肛門から頭頂まで、そしてそれらを支える四肢などの多くの筋肉を使う、全身の働きであるということです。息を入れる空間感覚は腹や胸を超えて喉から頭頂まで広がります。喉の奥を拡げる作業でも、喉頭部や咽頭部まで広げるには頭皮や顔面の筋肉、首の周りの壁の筋肉、肩や肩甲骨までも働いていることが分かります。結局は全身が呼吸器だということです。 

  笑い・泣き・アクビなどを思い出して全身を使う工夫が大切です。高らかに伸びやかに笑い、なまアクビではなく深い真底のアクビで核心にせまります。まずは身体がアクビの必要性を思い出すこと、そして練習すれば深いアクビを連発できるようになります。

 こうして手に入れる深い呼吸、統一調和した呼吸が自律神経の働きに与える影響は計り知れません。

 呼吸は人間の意識や存在感と深く関係する、心と身体を含む人間丸ごとを扱う問題であることに思いを深め、これを統一調和する、正すということを目指します。


ダラーナ:ヨガの八段階で言えば六段階目、ヨガの十段階で言えば五段階目にあたる。
ディアーナ: ヨガの八段階で言えば七段階目、ヨガの十段階で言えば六段階目にあたる。
(ディアーナは禅と同義)

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