自分らしく生きる生き方そのものが人を健康にする

NVY-intro43

ナチュラル ヴォイス ヨガ入門 43

 和気愛会 2017年9月号 (No.216)


私たちは満足している時、気分のいい時にはゆったりと深く、そして力強い呼吸をしています。

この呼吸の深さこそが生命の本来の要求です。海のように広く深くゆったりと感じて生きる。伸びやかでデリケートな優しさに包まれて生きるということ。私たちの日常の“呼吸”が自分の“生そのもの”であり、優しい呼吸をしていれば優しさに包まれ、伸びやかな呼吸をすれば心も体も伸びやかさを味わう。
何にも邪魔されず伸びのびと広い呼吸をしている。そしてそのために全身が協力している。こんな呼吸こそが豊かな心で生きる源泉なのです。

さて、呼吸には人それぞれの特徴を持ったパターンがあります。吸う息に力がこもる型、吐く息に力がこもる型、お腹で息をする、胸で息をする、身体の前側で息をする、後ろ側でするなどの色々な型があり、人により状況により、それらの色々な組み合わせの型の呼吸をしています。そしてそのパターンはその人の癖として身に付いているものです。その癖から解放され、どの方向にも限定されない深い呼吸をしていたいと生命は求めていることでしょう。

ヨガには色々な呼吸法が何千年もまえから伝えられてきました。それらには、プラナを取り入れるとか心を安定さるというような効能があると言われますが、その根本、ヨガにおける呼吸法の本来の目的は、各自の持つ呼吸のパターンを、生命の要求に沿った、ゆったりとした深い呼吸の型に変えることにあるのです。もちろんそれが実現すれば、色々といわれているような効能も結果として得られることでしょう。

呼吸が深いということは心の問題でも体の問題でもあります。元気のない時、欲求や嫌なことに心が支配されたときには幅の小さな浅い呼吸になります。反対に元気で気持ちのいい時は幅の大きな深い呼吸になります。このことは“逆もまた真なり”で、意識的に深い呼吸をすることができれば、元気を出したり嫌な心の使い方から離れることが出来ます。
同じ生きるなら喜んで伸び伸びと生きている、そういう型の呼吸をしているべきでしょう。

“呼吸”にはもう一つ大切な要素があります。 試しに、できるだけたくさんの息を吸い入れてみましょう。
このときは肋骨を高く引き上げているでしょう。そして次にその力を抜くとため息のように息が出ていくでしょう。

このタイプの呼吸が一時的には気分のいいこともあります。 例えば、長時間屈んだ姿勢でいた後の浅くなった呼吸を戻そうとするとき、清々しく美味しい空気を胸いっぱい吸い込むときのような呼吸です。しかしこの呼吸を継続して行えば決していい気分ではいられません。

やってみれば分かりますが、すぐに嫌になる呼吸の型、いわゆる胸式呼吸です。そして、このような泣いたり緊張したりしているときのように吸う息に力を込める型の呼吸は、続けて行う呼吸としては生命の要求には適っていないのです。

反対に気分のいい時、笑っているときにはいつのまにか吐く息の方に力のこもる呼吸をしています。 この型の呼吸をしていることが生命の要求であり、この型が身に付けばそれだけ気分よく健康にも生きることが出来るのです。効能的に説明するなら、自律神経のバランスが取れるということです。

このように、「深い呼吸をする」ということと、「吐く息に力がこもる」というこの二つを常に生命は求めていますが、この逆がどんな状態か、試しに肋骨を落とした状態で呼吸をしてみるとよく分かります。

肋骨を落とし呼吸の力を抜いたところから、その肋骨を上げないで息を入れようとしてもあまり息は入ってきません。今度は、呼吸の力を抜いたところから息を吐いてみます。お腹が引っ込みますが、十分に引っ込めて吐いた後で腹の力を抜くと息は勝手に入ってきますがその息の量は少量です。

次に、両手を挙げて肋骨を高く引き上げた状態にしておき、やはり呼吸の力を抜いたところから息を吐くと、さっきよりもずっとたくさんの息を吐くことが出来ます。吐くためにはさっきよりもたくさんの力が必要だし、絞ったお腹の力を抜くとさっきよりもたくさんの息が入ってきます。
これが吐く息に力を込めて呼吸の幅を大きくしている状態です。

ただし、ここで問題になるのは肋骨を高い状態に置いておくということです。 手を挙げれば肋骨は高くなるけれど、その手を下げたときに肋骨も下がってしまうなら、肋骨を上げているためにいつも手を上げていなければならない。

また息を吸って肋骨の高い状態を作ろうとするなら、それは吸う息に力を込めることになってしまう。 求めるところは、肋骨が高く吐く息に力がこもり呼吸が深くなるということですから、肋骨を高く使うということについて別の方法があるのか考えてみる必要があります。

ここがとても大切なところで、このことを理解し、その理に従って体の使い方を自分に教育していけば理に適った呼吸法ができるようになります。

ここで理解しておきたい呼吸のメカニズムを説明します。
それは、肋骨を引上げるには二つの方法があるということです。

一つは胸に息を吸い込む、強制吸気の力で肋骨を上げる方法。

もう一つは起立筋を使って背骨を伸ばすことで肋骨を引上げるという方法です。

そして、私たちが身につけるべきは後者の方なのです。 これはとても自然な方法であり、背骨を伸ばすというごく単純なことです。 背骨が伸びると自動的に肋骨が引き上がる。 元気な時、高らかに笑っている時を思い起こすと納得できることでしょう。 背骨の力を抜くと肋骨が下がり、胸が萎んでしまいます。

胸が楽に拡がるように背骨に力がこもっていれば、放っておいても吐く息に力がこもります。 そして胸郭が広がるから呼吸の幅も大きくなり、深い呼吸ができる。そして胸郭が広い状態で呼吸をすると横隔膜が強く働くことになる。吐く息は内臓を胸郭に向けて押し上げる筋肉、即ち腹筋や腰筋などの骨盤周りの筋肉と骨盤底の筋肉群が働きますが、息を吸う時にはそれらの力が抜け横隔膜が下がる。

骨盤底や肛門は体の使い方の状況によっては力を抜きませんが、胸郭の側に押し込んだ内臓が下がることのできるように締め上げた力を緩めることが必要なのです。 こうして吐く息に力を込めて深い呼吸をする。これが全身的に気持ちよくできている状態が【完全呼吸】をしているということです。

私たちは欲求の充足だけで呼吸が深くなるのではありません。いつも最高に気分の良い状態でいるということはいつも完全呼吸をしているということです。 このことを理解すれば沖先生がいつも「吐く息に力を込めよ」と言われていたことの意味がわかります。

私は20代30代の頃にはこの意味がよく分からなかったけれど、体の使い方や声の出し方の本来の在り方を追及していくとこのようにしかならないということがすこしずつ身体で分かるようになりました。
私にとっては身体で分かった感覚から導いた理屈ですが、当たり前のことですから誰にも納得できることと思います。

こんどはこれを実際の自分の呼吸に生かす方法を考えてみましょう。この呼吸が出来る方の場合も、他の方にそれを伝えるためには、ただ出来るというのではなく、そのメカニズムを把握している必要がありますから、もう一度その感覚を再点検していただきたいと思います。

そこで次の問題として、起立筋と背筋の使い方があります。

背筋は主に背中を反らせたり物を持ち上げるときなどに使われますが、背骨を伸ばすということと背筋に力を入れることを取り違えている人がとても多いのです。

腰や背中が丸くなっている場合は背骨(起立筋)の力が抜けていることが一目瞭然ですが、一見姿勢が良さそうに見える人にも、背中や腰の筋肉を使って腰を固くしていたり、反り腰になっている場合が多いのです。 このときは背骨が伸びているように見えても起立筋で背骨を伸ばしておらず、肋骨が低く胸が薄くなります。顔が前に出たりアゴが出たりする場合もあります。

それではここで吐く息に力のこもった深い呼吸がどのようになされているのか見てみましょう。

全ての背骨の起立筋がしっかりと働き、肋骨の高い状態で息を吐き、その体勢のまま腹筋が緩み、横隔膜が下がる働きでお腹の底に息が入り始める。そしてまるで水位が上がってくるように下から上の方までだんだんに息が満たされてくる。

そうすると、起立筋で肋骨を引上げていられる範囲で息は満たされる。胸椎や頚椎の最上部まで起立筋が働いていると、吸込みなおさないでも胸骨の一番上まで息が入るはずですが、起立筋が下から上まで満遍なく力がこもることは難しく大きな課題です。

横隔膜が下がることで入ってくる息は起立筋が肋骨を引上げれる範囲までです。もちろんそこからでもさらに上部の起立筋が働いてもっと上まで息を入れることもできますが、その働きを意識的に使える人に限られます。多くの場合トレーニングしなければできません。

それができない多くの人にとっては、そこからは別のやり方が必要になります。これはヨガの古い文献にも書かれていますが、吸う息に力を込めて強制的に「息を吸い入れて鎖骨のところまで息を入れる」のです。

この吸い方をした場合は、次にそのまま息を吐くのではなく、必ずクムバクをする必要があります。クムバクをしている間に、吸う息に力を込めて引上げた肋骨を維持したまま、その上げる働きを、背骨を伸ばして肋骨を引上げる起立筋にバトンタッチするのです。

ここがとても大切なところで、クムバク中にはこの力のバトンタッチが可能なのです。 ただし、息を止めただけではこの変換は起こりません。今までこの欄で何度もお話しをしたように、クムバクをしている間に肛門を締めたり気を下げたり、クムバク体操をしたりして息の調和を図る必要があります。

バトンタッチした後に、外肋間筋やその他の強制吸気のためにあるといわれている筋肉が全く働かなくなるのかどうかはわかりませんが、大切なのは、①努力して息を吸う時の肋骨を上げる感覚。もう一つは、②背骨をしっかり伸ばしながら息を吐き、その吐く力を抜くことで勝手に息が入ってくるという感覚、この二つの吸気の仕方の違いを体感することです。
そうすれば力を変換出来るようになります。

吸い切ったところで息を止め(苦しければ少しだけ鼻から息を抜いてもよい)、首を伸ばし、顎を引き、頭頂を天に向けて突くように伸ばし、息を調和させる。 こうして、起立筋で肋骨を高くしたところに息が流れ込んできたのと同じ状態になる。

このように「起立筋で吸気を維持する」ことを体に覚え込ませるのです。それは新たな回路として錐体外路系に刷り込むということです。

もちろん起立筋で吸気を維持していれば、そのまま横隔膜や骨盤底筋群を働かせて、頭も体もそして心も安定した状態にすることが出来ます。この練習を重ねて起立筋が十分に働くようになれば、お腹の底から胸骨の先、首にまで連続的に息が入るようになります。以前に紹介した「クムバク体操」もこの目的で行うものです。

もちろん、最初から背骨の下から上まで起立筋が働くことを目指す方法もあります。それは以前会報で紹介した「跳躍呼吸法」と「調気呼吸法」です。 この両方のやり方を併用することでより早く良い呼吸の型を身につけることができるでしょう。そしてこの呼吸の型では、寝ている時の呼吸のように、横隔膜を起点にした吸気をすることが可能になります。

このことについても沖先生は大きな示唆を下さっています。
それは「寝ているときの状態で最高度に活動するのだ」という言葉です。

背骨を起立筋で伸ばすというのは活動のための交感神経系をフルに使うということであり、横隔膜が主導の呼吸というのは寝ているときのように副交感神経の働きが高まり脳波の調った状態、この二つを同時に持って、最高に大きなバランスで、動禅の状態で生きるということを目指しなさいと教えてくださっているのです。

最近は、クラスでも個人指導でも、この完全呼吸の意味を理解することと体得することに向けたレッスンをしています。



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