自分らしく生きる生き方そのものが人を健康にする

NVY-intro31

ナチュラル ヴォイス ヨガ入門 31

 和気愛会 2016年9月号 (No.204)

 喜びの中で生きるという有り難い状態を得るためには、その状態を憧れ求めているのにもかかわらず、それにブレーキをかける呼吸や体の働き方に対して、逆の方向性の使い方を自分自身に教え叩き込む必要がある。そして、積極的な心の状態を維持できる呼吸と体の使い方を自分の常態にしなければならない。

 どこまでも伸び続け、どこまでも深く沈み、どこまでも広がり続ける意識を持つことが出来れば、それ以上に何もすることはない。

 いつもそうありたいと願っているつもりであっても、気が付けばどこかが縮み、歪曲した願わない自分の姿がある。観察してみればいくらでもある。気づかないところはもっと多いことだろう。

 自分の願いですら持ち続けることが出来ない自分がある。それでも求め続けるしかない。それらをクリアして求める本来に至るためには多くの道とステップがあるに違いない。

 でも今歩く道はいつも一本しかない。一本しかないからこそ先に何かが見えるまでひたすら歩き続けるしかない。ただ歩き続けるだけだ。

上げる気

 最近はヨガのレッスンでも声のレッスンでも、シュッ シュッ シュッ と音を立てて息を吐く強い呼吸法を皆にやってもらっています。もちろん自分でも思いつけばやります。

 フイゴの呼吸やブレスオブファイヤーに似ていますが、意識の仕方はだいぶ違います。子供がピョンピョン飛び跳ねているときのように体の中が動く、動くというよりも躍動している状態をつくり、それと強く吐く息を結び付けています。

 肋骨を十分に引き上げながら吐く息とともに体の中身を強く引き上げ、頭頂が天を突くような引きあげる気を生み出します。引き上げる気というのは背筋(せすじ)を伸ばす力でもあり、元気・興奮・憧れ・向上・取る・能動・集中・交感神経などなどの働きです。強く求める心もここから生じるので、この働きが弱ると真実や美を追及する意思も弱くなります。

 背筋が最上部まで伸びて力がこもり、内臓が引き上げられ、肋骨が引き上げられて拡がり、胸骨の先端を天に向かって突き上げ、頭頂も天に向かって伸び引き上げられる。

 目いっぱいの力で頑張るのではなく、どこまでも弾み飛び上がるような弾力のあるやわらかい力で、強くも弱くも、早くもゆっくりも、立っているときなら足の裏から始まるエネルギーが頭頂を抜けて天まで伸びる。肛門が締まりその働きが体の中を引き上がり、下腹部、お臍、上腹部と締まり、頭頂まで天まで引き上げる。このような気を上げる働きを強める呼吸法をたっぷりとやります。

 まずは年齢と共に衰えると思われているこの働きを養うことが大切ですが、これに拮抗する「気を下げる働き」が十分に働いてこそバランスが取れます。

下がる気

下がる気は安心の呼吸で生まれると書いたことがありますが、肋骨が高いまま息を吐き、その肋骨を下げずに息を解放し、横隔膜が下がり、そして持ち上げた内臓が下がるときに下がる気が生じ、お腹の充実感や安心感が生じます。このときの息は頭頂から下に向かって流れ込むように入ってくることが大切です。しかし、肋骨が高い状態でなければこの気の流れはほとんど生じません。

 下がる気の働きは、落ち着き・安心・あきらめ・沈潜・与える・受動・放下・副交感神経などなどで、横隔膜の動きと強く関係しています。

 横隔膜が下がるときは気が下がり、お腹や腰の後ろが膨らむ方向の力が生じます。腹圧が上がる方向ですが、それに腹壁や骨盤底の筋肉などが締まることでもっと腹圧が高くなります。

 横隔膜が下がるということは、落ち着いたよい声を出したり歌を歌うときに必要な働きでもありますが、気を下げる感覚としてとらえられ、上がる気に対してバランスをとり重心を下げ、気持ちの安定を生み出します。このとき、肋骨が下がっていると腹圧はもっと高くなりますが、上げる気とのバランスはよくありません。

 肋骨が下がりお腹が大きく膨らんで、若さや夢を失ったかわりに財産をたくさん手に入れて喜んでいるように見える、まるで布袋さんの絵のような体型です。

 下がる働きが大きいと安定感や包容力を生みますが、明るさや開放感は減ります。上への気とのバランスがとれてはじめて良い状態が生じます。

 強く吐いて気を引上げ、肋骨も頭頂も高く引き上がったまま息を解放すれば、吸気は流れ込むように入ってきますが、この流れ込み方が体の広がりを生み出し、頭の血を降ろし、心を調えるのです。

 毎日子供のような心で生きていれば上げる気下がる気の自由な呼吸とそれに必要な筋肉はいつの間にかついていることでしょう。激しい筋トレをする必要はありません。

 しかし体が先に負けてしまっている人にとってはそこから抜け出ることは大変に難しいことです。でも、心・体・呼吸の三密の原則に基づく、この後に述べる呼吸法がその突破口になります。

『吸った息のクムバク』と『吐いた息のクムバク』

 吸う息のクムバクについてはこの紙面で何度も紹介しています。吐く息でのクムバクについては初めてかもしれませんが、この二つのクムバクの働きはずいぶん違うので、どちらも身につけていただきたいと思います。

 吸った息のクムバクは肺が陽圧になり、吐いた息でのクムバクは陰圧になります。また調った姿勢をしていれば、息を吐くときは上向きの気の流れが生じ、吸うときは下向きの気の流れが生じます。ですから、吸ったクムバクは次に気を上げていく働きの前の段階であり、吐いたクムバクは気を下げる準備の状態とも言えます。

 この気の流れは姿勢が正しく保持されていないと全く逆になることもあります。肋骨を下げた状態から上げて息を吸えば上向きの気が生じますし、肋骨を下げて息を吐けば下向きの気が生じます。

 この動きの中からは、心や体感空間が拡がるような、拮抗する気の流れから生まれる大きなバランスを生み出すことはできません。正しい姿勢をしているときのみ大きくバランスのとれた妙味を味わえるのです。

 私たちは色々な動きができるように作られていて、どの動き方が合っているとか間違っているとかは言い切れないところがあります。でもここであえて正姿勢と呼ぶ姿勢は、心身が一番安定する体の使い方を基準にしています。

 自律神経の安定する姿勢、心も体も和らいで気もちの良い姿勢、長時間維持することのできる無理のない姿勢、即ち冥想の状態になることのできる姿勢ということです。

 背骨がすっと伸び、肩や首の力が抜け肛門が締まり、ゆったりニコニコ気持ちの良い状態です。座禅をするときのように正しく背筋を伸ばして呼吸法を行います。

 沖ヨガでは、その状態をそのままに、仕事・生活・遊びを行いましょう。生きるすべての行為を動禅として行いなさいと教えますが、このときこそ吸う息も吐く息も調和した息の状態になっているということです。

 これが簡単なこととはいえませんが、呼吸を意識しながら生活をすればその生き方へのアプローチができるのです。そしてそのバランス状態を覚えてしまうことでどのような姿勢の中でも正しい呼吸ができるようになるというプロセスがあるのです。

 禅寺での修行もそのプロセスをもっていると思いますが、そこにより深い呼吸の科学が関与すればもっと目的に近づきやすくなることと思います。

 ヨガのポーズもこのような呼吸で行うのでなければヨガとは呼べません。ここを求めここをプロセスに前に進むのがヨガだからです。

吸った息のクムバク

 ちょっと試してみてください。
 お腹に入ってくる以上にたくさんの息を吸い入れるためには、胸の力も使って息を吸い込む必要があります。

 ①.胸の上部も使って目いっぱいの8割か9割くらいまで息を吸い入れ、息を止めます。そのままなにもしなければ胸に力の入ったままになります。これは上虚下実と反対の上実下虚の状態であり、決して心にも体にもよい状態ではありません。

  次にそのまま息を吐かずに胸の息を下げて下実にしようと、
②.胸の力を抜いて息をお腹の方に移すそうとすると、鳩尾(みぞおち)など別なところに力が移るだけで決して楽にはならず、上虚にはなりません。

 息を抜いたり吐いたりせずに楽に息を止めているにはどうすればいいか。

 息を吐かず、
③.背筋を伸ばすことで肋骨を高くして拡げ息を吸ったままにしておくための力を背骨に移し替えます。そうすると胸の力が抜け、

④.気を下げることで息は楽にお腹の方に移ります。 これを簡単な方法でやれるようになるのが、拙著『ナチュラル ヴォイス ヨガ』のp131に書いてある、クムバク体操です。今回はここを読んで試してください。

 息を吸って止めるときには声門も一緒に閉じています。

 ②のとき、肺の中の息の圧力が高くなっていているのに息を止めていられるのは、息が出ていかないように声門を閉めているからです。

 この状態で、例えば「今日はいい天気ですね」と声を出してみると、押し殺したように潰れた喉声が出てきます。ところが、④の状態で同じように声を出してみると、たくさん息のある状態でも楽に気持ちよく、いつもよりもずっと良い声を出すことができます。

 これがクムバクの大切なところです。正しくクムバクできているときには、胸でも喉でもないところで息が出ていかないように支えることが出来ているので、たくさん息が入っていても気持ちよく声を出すことができます。

 それは胸を上げる力で肋骨を高くして息を保持するのではなく、背骨の働きで肋骨を引上げて開いているので、胸や声門閉鎖に頼ることなく息を保持できるからなのです。そしてそのまま楽に気持ちよく声が出るのです。

 拙著ナチュラル ヴォイス ヨガのp140では『クムバク体操の後に「今日はいい天気ですね」と誰かに話しかけるように声を出してみましょう』と書いています。P131からはクムバク体操の色々なやり方をかいています。この体操がうまくできると声が楽に出るだけではなく、いつもに比べてずっと響きと声量のあるいい声が面白いように出てくるのです。

吐いた息のクムバク

 さて、吸った息のクムバクがうまくできるようになった人は、次の段階として吐いた息でのクムバクができます。

 吸った息で行うクムバクは、肋骨を拡げ高く上げる働きを、背筋を伸ばす働きに移しかえています。ところが吐いた息でのクムバクもやはり同じように肋骨を高く引き上げ背筋を伸ばす必要があります。

 ただし、吸った息でのクムバクの場合は肋骨を高くを保ちやすいのですが、多くの人にとって、吐く息と肋骨が下がることとが結びついているため、吐いた息でのクムバクは、肋骨を高く保つことが難しくなります。

 背筋が伸び、息を吐いた状態で、声門を閉めて、気を下げますが、上から下に向かって押し付けるような力を使うのではなく、横隔膜の下がる働きが体の底から下向きの力を生み出すような、できるだけ下の方から始まるような体の使い方をします。

 息を吐いて声門を閉めたまま、背筋を伸ばしたところで横隔膜を下げると陰圧度が強くなります。肛門や骨盤周りの筋肉の助けも借りて、感じられる最低部から息を下に引き込むように陰圧にし、そこで声門を少し開くと下向きの息が入ってきます。

 これで息を吐いて行うクムバクから下がる気を体得できるはずですが、吸った息で正しくクムバクできないという人は背骨で肋骨を引上げて置く力が弱いですから、この方法も正しく行うことができず、かえって不要な緊張を引き起こし、体のバランスを壊しかねません。

 ですから、吐いた息でのクムバクは、吸った息でのクムバクで息の調和という状態を十分に感じられる人がやるべきです。ただし、全身を使ってやる『クムバク体操』に限っては、吐いた息でのクムバクをしてもかまいません。

 p133~p136の『天突きクムバク』『胸腰たたきクムバク』『脇伸ばしクムバク』、p139の『テンツククムバク』など、全身的に動かすクムバク体操であれば、本に書いてある体操の「息を吸って止める」というところを「吐いて止める」と置き換え、吐いた息でのクムバク体操で、吐いても背筋が緩まず、高い肋骨の使い方を身につける助けになると思います。最初は楽に吐いたところでやり、慣れるにしたがってたくさん吐いたところでやります。

 声門を閉じ、背筋をしっかりと伸ばしたまま肛門と下腹を締め、意識を下腹部に置いて少しの間息を止めます。次に声門をゆっくりと少しだけ開き、体の底に向かって息が流れ込んでくることを感じ、その息の流れのままに上肺部にまで息を入れ、そこで吸った息でのクムバクをしてからゆっくりと息を吐きます。

生きる喜びと呼吸

 こんな内容をテーマにしていますが、お話ししているような呼吸の働きを身につけることが、心が喜びを得て生きるというためにはとても大切なことではありますが、呼吸そのものがその状態を生み出すとは限りません。

 物事の受け取り方や考え方が正しくなり、自他を害さず考え行動し、その上に自他に喜びをもたらそうとする積極的な心と生き方がなければ、いくら深い呼吸を身につけても、心に生命の喜びも何も湧き上がってくることはないでしょう。それを希求する思い、憧れが、その心を生み出し、その心が生命の喜びをもたらします。

 私たちの心に上がってくる思いは、潜在意識と顕在意識の混じり合って出てきたものを感じています。蓄えられている潜在意識にはいろいろなものがあるでしょうが、印象として自分の中に蓄えたものが多く出てきているのですから、現在の意識をいつも好ましいものにし、常時自分自身にいい印象を持つように課して自分のものにしてしまわなければ、いくら呼吸法をしても心の中をいい状態に保つことはできないでしょう。

 日々の生き方でよい印象を自分に蓄えるためには、物事の捉え方や行動の仕方が大切です。でもその一瞬一瞬の捉え方感じ方を支配しているのが呼吸ですから、呼吸を調えない限り悪い印象の思いを自分に蓄積することになるのです。

 まずは今、快い呼吸を身につけて実践し、今をより良い状態にし、そしてその印象を蓄えた分、それは天国に財産を蓄えたり、徳を積むというように自分の中に良いものを築いていくことになるのです。



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